エンバーガルドの戦記 – 坑道の血戦

スケイヴンが現実界への道を切り開き、火の領域中で群れをなし蠢いていた。この影響で、誕生したばかりの都市エンバーガルドは陥落したと考えられただろう。だが、城壁を築いた頑強な開拓者たちがいよいよ追い出された時、すべてが敗北に陥ったわけではなかった。その都市にある貴重な領域石の鉱脈を守るべく、シグマーの選ばれし戦士たちの一団がエンバーガルドの坑道を調査していたのだ。しかし、この坑道の暗闇には危険が潜んでいた。敵に見つかるはるか前に、切迫した緊張感がそのシグマーの戦士たちを崩壊させてしまうかもしれない。

坑道の血戦

ここはかつて、“火薬箱”の名で知られていた。不穏な呼称も、この難所からすれば至極もっともな命名であった。エンバーガルドの富は、この鉱山全体に張り巡らされた領域固有の鉱物、レルムストーンの鉱脈からもたらされていた。熾火石——エンバーストーンとも呼ばれるそれは、昼も夜も熾火のごとき輝きを放っていた。通常、地下は涼しく、湿気がない。だが、ここは灼熱の焔の領域アキュシーであった。地下であっても当然のごとく猛烈な暑気を免れ得ず、汗ばんだ肌に鎧を着せておくと、肌が焦げついてしまうほどであった。

アルドーン・フレイムランナーはその暑さを嫌っていた。ほとんど憎んでさえいた。その勢いで言うならば、彼は呼吸もままならぬほどの茹だるような暑さを憎んでいた。花崗岩と玄武岩で構成される坑道の低い天井を憎み、極端に見通しの悪い曲がりくねったトンネルを憎んでいた。ここは彼が若い頃に狩りを楽しんだ、なだらかな起伏に富む火影草の平原とは似ても似つかぬ環境であった。彼はまた、焼け焦げた樹木の層と黒い石の層が幾重にも重なる採掘現場も憎んでいた。巨大な地下亀裂の周辺には、木製の作業台が設置されていた。そこに立ち、ところどころで切れてはいるが、螺旋を描いて伸びる運搬車の線路と、錆びた係留用の鎖がおびただしく吊り下げられた採掘坑の縁を覗くと、目にする限りの暗闇が広がっていた。だが、その暗闇は領域石の光に照り映えていた。そこはアシェンモント山の奥深くにまで到達する縦穴であり、そこを照らすのは、愚かな盗人を怖気付かせるほど膨大な、エンバーストーンの光の脈動であった。

だが、彼が何よりも憎んでいたのは、ナイフを研ぐ際に生じる鋭い金属音と火花の散る音であった。

「神王の鐘にかけて、もうそれは勘弁してくれないか?」

そして、鋭い金属音は止んだ。ため息を一つ吐いて、ストームキャスト・エターナルは肩越しに振り返った。こちらにやってくる影が、採鉱坑内の壁に映った。やってくる者たちは皆同様の装束に身を包んでいたが、その衣の下にはさらなる装甲が隠されていた。顔は頭巾と半面覆いで隠されていた。目だけが顕になっていたが、彼らにとってはそれで十分なのであった。

「我が刃は鋭くあらねばならぬ、アルドーン」“再起せし者”ファラーサの声には、どことなく奇妙なアクセントがあったが、冷酷さや刺々しさとは無縁であった。だが、彼女の言葉には叱責が込められていた。その鋭さに関しては、彼女が腰に差した二本のナイフに匹敵していた。

「そりゃそうだ」アルドーンは答えた。まるで唸っているような声であった。彼自身、そう感じていた。

「もし我らが使命を果たし、この鉱山を守るのならば、我らが刃は鋭くあらねばならぬのだ。アルドーン」手にした輝く砥石を示し、辛抱強い教師が噛んで含めるような口調で告げた。前世では、説教師だったのではあるまいな——アルドーンは思った。どんな宗派だったか、見当もつかないが。「其方はよく承知していよう、この事実を?」

「承知してるとも。俺たちはここで何ヶ月も過ごしてる。薄汚い獣どもの爪や、おかしな教義に染まっちまった連中の手に、領域石が渡らないようにしてきたんだ。あらゆる手段を用いてな」

アルドーンは吐き捨てるような調子で語った。彼はファラーサの前に出て、拳を握り締め、顔と顔を突き合わせるようにして立った。

「俺はこの任務が俺たちを戦いの場から遠ざけたことも承知してるさ」アルドーンは言った。「俺たちがうろつくあらゆる場所じゃ、不意にろくでもない死に目に遭うかもしれないってことも、こんな境遇にいながらあんたは相変わらず俺を苛立たせてくれるってこともな。あんたはもったいぶって剣を研ぐ。思わせぶりに言葉を切る。俺をたばかる気か? その仮面の中で舌を出してるのか?」

坑内の天井が突然揺れ、砂利が降り、粉塵が舞い上がった。地上では、廃墟と化したエンバーガルドに再び砲撃が降り注いでいた。砲撃はいかなる敵の放ったものかは判然としなかったが、高まりつつあった緊張を一時的に抑え、ため息を一つ吐かせて論争を止ませるだけの効果をもたらした。

「まったく、我らは一日おきにこの“議論”を続けておるわ。間違いない」

ユリックはクロスボウの手入れをするために、ひっくり返ったショベル台に腰を下ろしていた。年長者は“無心の仮面”を外し、己が傍らにそれを置いた。彼は黄褐色の顔をさらし、顎を掻きながら二人を見上げた。彼の両眼には、稲妻のごとく一瞬、悲しみが走った。

「お前たちが互いを引き裂いた挙げ句、神王の御前にて申し開きをする前にだな、一つ息を継いで今我らがどこに身を置いておるか、振り返ってみてはどうだ?」

アルドーンは険しい表情のまま深呼吸した。喉の奥にいがらっぽい、煙で燻されたような感触を覚えた。彼は顔をしかめた。アキュシーの領域石、特にここ“火薬箱”で産するものは、思考や意識を集中させ、沸騰させるがごとく熱烈な思いに高めてしまう副作用がある。それを自覚した上で振る舞う術を知らぬ者は、忍び寄る領域石の影響に支配されやすくなる。己を御すべし——彼は認識を改めた。

「許してくれ、我が姉妹よ」アルドーンは言った。彼は広げた右の手のひらを左のそれに重ね、改悛の情を示す古き部族の所作を示していた。「自分を見失っちまってた」ファラーサは、ややためらっていたが、ぎこちなく後に続いた。

「私たちは、二人とも、そうだった」

「いわく、“そしてシグマー、高き広間に平穏の戻りしを目にされ、それを善しとされ、密かに微笑まれた”——というわけだな」ユリックは自分の引用に気を良くし、含み笑いをした。彼が好んで暗誦する、古めかしいアズィルの言い回しであった。「世界が滅ぶからといって、礼儀作法を捨て去る必要はあるまい?」

二人は鋭い視線を彼に向けたが、坑内に再び響き渡る轟音と揺れとによって逸された。実体のともなわぬ熱と衝撃音の奔流が走り、一同が身を置くトンネルにつながる坑内のどこかで再び新たな爆発が起こったことを暗示していた。ストームキャストたちは爆発のあったと思しき方向へと全員向き直り、武器を構えた。ユリックは立ち上がると、ヘルメットをしっかりと被った。

「あれは地上の爆発ではない」それは事実であった。“歪み爆弾”の炸裂音が轟いたことを、今や全員が認識していた。

「スケイヴンどもがいるな、同胞よ」アルドーンは言った。片手式の弩を構えた彼の言葉には、粗野ではあったが、鋭さを増していた。「ついに我らが怒りの矛先を向けるべき相手が現れたようだ」

「最高に素晴らしイ爆発です、知恵高きウォーロック様。もし、もシも、私めに許されるのであレば、単純なご忠告を——」

「要ラぬ」

ジキット・ロックノーは、有頂天であった。そのわけを問われるような耐え難い屈辱とも無縁であった。鼻をひくつかせ、爆発によって漂ってきた硫黄の甘い芳香を嗅ぎ取ると、自然とヒゲがわなないた。トンネルの内壁が崩れ落ちると、見るも無惨な損壊部分から続け様に瓦礫がいくつか落下した。完全に突破口が開かれたわけではなかったが、その向こうには熾火石の豊かな鉱脈が待ち受けているはずであった。それは同時に彼自身の栄達を約束する代物でもあった。この宝物を人間どもは獲得できなかった。あるいは愚かにも獲得することなくスケイヴンの大侵攻に呑み込まれてしまった。まさしく我こそが手にして然るべき褒賞なのだ——ジキットはそう考えていた。

「そうだ、一番厄介なノは、唯一……」そこまで言葉を継いだ時、“焦げ鼻”ニッチがか細い鳴き声を上げた。このアコライトはガスマスクをつけてはいたが、マスクは陰気な鳴き声まで封じてはいなかった。彼は一方の足を震わせていたかと思うと、もう一方の足を震わせ、神経質そうな小刻みな動きを示した。ベルトに下げた爆弾がぶつかり合ってカチカチと音を立てた。肥え太ったネズミが彼の肩の上で体を丸め、か細い声で鳴きかけた。「いやいや、唯一ではナい。少なくとも、ここではな。他の氏族の連中、そレにあのストームキャストども——」

ジキットの機械式鉤爪が喉を締め上げたのだ。彼は息を呑み、かすかな悲鳴に似た声を上げ、束の間立ち止まった。ジキットが冷笑を浮かべ、ニッチを機械腕で高々と持ち上げると、ニッチは狂ったように手足と尾をばたつかせ、爪で機械腕を掻きむしった。ジキットがさらに機械腕の力を強めると、ニッチは声を詰まらせ、自分の喉を締め上げている機械腕を弱々しく引っ掻いた。

「貴様に我が知見ナど理解できるもノか、蛆虫め。どうだ、擲弾兵にナりたいのか? 技術教団に入りたイのか? ふん、取り乱シおって。部下は要る。だが、貴様の代わりハ、掃いテ捨てルほどいルのだ」ジキットは一言ずつ、軋るような響きを込めて言い立てた。ニッチは必死に頷いた。狼狽えたアコライトを嘲笑い、ジキットは無造作に彼を地面に落とした。落とされた衝撃と痛みで身をよじった彼は、喘ぎつつ震えつつもどうにか立ち上がり、壁に向き直った。

「まダ熾火石は不安定、そウ、不安定だ。削岩作業を続けルか。リタックはどこだ?」ジキットの副官は、領域石のさらなる埋蔵分を探るために派遣され、姿がなかった。おかげでジキットは考えをまとめる時間が確保できて楽ではあったが、今は再び彼が必要となっていた。不平をこぼしながらジキットは自身のドリルを構え、ワープグラインダーに供給するエネルギーを両手持ちの装置に凝縮した。エネルギーの充填されたグラインダーは常に危険なほど振動するが、少なくともそれが振動に留まっている限りは、問題ではなかった。

「よシ、よシ、自分でやる他あるまイな」

「ゴ主人様」

ジキットは、どうやって“焦げ鼻”を八つ裂きにしてくれようと考えていたが、その結論を出そうとしているさなか、自分に呼びかける者がいることに気づいた。トンネルを進み続けると、クリッタトックが背を丸め、金属製の触覚爪で地面を叩いている姿が目に入った。このアコライトの仮面がジキットを振り返った時、ジキットは身震いを覚えた。クリッタトックにはどこか妙な違和感があり、ざらついた声で執拗に言い募る口調は特にそう感じさせる要素があった。

「石が語りかケてきまシた」アコライトは決然と頷いて告げた。「敵襲です」

「何モ聞こえんぞ——」

ジキットは立ち止まった。彼は石の天井を伝わってくる響きを確かに耳にした。重々しい打撃音が聞こえた途端、通路の天井の陥没部分を補強するために用いられていた木製の板が踏み抜かれ、マントをなびかせた黄金の影が頭上から飛び降りてきた。

クリッタトックはストームキャストの着地の下敷きとなって踏み潰され、無残な肉片と化して飛散していたはずであった。だが、通路に着地したストームキャストの足元には、彼の姿はなかった。酷たらしい死に様をさらす代わりに、彼は影の中からマント姿の黄金の巨漢の背に飛び乗った。二振りの剣と指にはめた刃が打ち合わされ、火花が飛び散った。

“焦げ鼻”も素早く動いた。一呼吸の間に、爆弾を起動させ、すぐさま投擲していた。爆弾は早々と爆発し、トンネル内の壁は岩から引き剥がされ、無数の破片となって飛び散った。ストームキャストどもの指揮官らしき者が、顔を覆ってこちらに背を向けたのが見えた。

この瞬間、ジキットは全身にアドレナリンが湧き上がるのを感じた。ストームキャストどもの背後には、ヘルメット姿の戦士がいた。構えたクロスボウに装填された矢は、嵐の魔力を湛えて弾けるような音を立て、矢尻から輝きを発していた。

殺到する足音は、まるで速度を上げて猛然と迫り来る内燃機関を思わせた。それを耳にしたジキットの臭腺からは、恐怖の臭いがあふれ出した。

リタック・ヴェルムは歓喜の叫びを上げた。その叫びはしかし、彼が常日頃回転数を落とすなと主張し続けて止まぬ、小型化された殺戮の傑作機、“破滅の車輪”——ドゥームホイールの機関駆動の轟音によってかき消されてしまった。目にも止まらぬ刃の生えた車輪の高速回転は、同様に目にも止まらぬ速さで容赦なく車体を疾駆させる。乗り手の正気をたやすく奪い、車輪も乗り手も競うように絶叫を上げるのだ。その速度が増せば増すほど、先端に搭載された“歪み石”特製のブラスタードリルも激しく回転し、火花を散らす。

ドリルの切っ先から不浄なる稲妻が迸り、通路を焼き焦がしながら石壁に命中した。ジキットはその騒乱の中で咄嗟に身を横に投げ、辛くも灰になる運命から逃れた。クロスボウの射手はおぞましき稲妻に胸を射抜かれ、背後へと吹き飛ばされた。彼のクロスボウはそれでも放たれたが、大きく方向を変えて飛び去った。ドゥームホイールは岩にぶつかって横に弾かれ、宙を飛び、搭乗していたリタックは車体と壁の間で擦り潰された。まだドリルから放たれていた稲妻は通路内の闇を照らし、壁を砕いた。狭苦しい戦場はさらにその範囲を狭めていた。煙。決意。燃え盛る炎が岩肌を舐めるように吹き荒れる。

ジキットは己が本能に再び救われた。刃が風を切る気配を察知し、機械腕を伸ばして剣を振るストームキャスト・エターナルの指揮官の腕をつかんだのだ。神王に鍛えられし筋肉に、煤まみれの鋼が襲いかかる。

ジキットは鍵を壊すと、両手でドリルを構えつつ素早く背後に飛びすざった。鍵を解かれた彼の武器は唸りを発し、火花を散らし始めた。ジキットがしゃにむに繰り出すドリルの切っ先をかわすため、ストームキャスト・エターナルは小刻みに退かざるを得なくなった。強烈な〈歪み〉の稲妻が黄金の鎧を何度も叩いた。

ストームキャストは穢れた稲妻を浴びつつ、矢を放っていた。ジキットがその場に留まっていたならば、矢は彼の尖った頭を貫いていたかもしれなかった。だが、彼はすでに突進し、ワープグラインダーの切っ先でストームキャストの脇腹を切り裂いていた。放たれた矢は彼の頬をわずかに抉り、焼け焦げた傷をつけていた。

そして両者は間合いを空けた。害獣と聖戦士は狭苦しい闇の中で対峙し、息を荒げていた。周囲の戦いもまた激化し、鋼鉄が打ち鳴らされ、不浄なる機関が唸った。ジキットは、今や自分が優位に立っていると確信した。相手は脆くなった壁を背に、血に飢えた表情を露わにした哀れな番兵に過ぎなかった。だが、不意に恐怖が再び襲ってきた。ジキットは逃げ出したい衝動に駆られた。

坑道の内壁奥の隙間や、爆発が作った亀裂から、まるで見る者を誘い出すかのように光が明滅した。橙色の熾火の輝きが、ジキットの胸の奥に熱を——病んだ、執拗な熱望を——もたらした。スケイヴンは牙を剥き出し、鋭い息を吐いた。ストームキャストも同様であった。霊的な熱を帯び、全身をその波で洗い流したかに見えた。彼の厳しい表情は憎悪に歪み、脇腹からは真っ赤な血が流れていた。彼は咳き込むと、口からも血を吐き出した。

「熾火石が欲しいのか、薄汚い害獣め? 欲しいだけ持ってゆくがいい」

「あア、あア、欲しイとも!」ジキットは頷き、ドリルの力を解放した。熾火石の輝きは、ジキットのゴーグルに煌めいた。「あノ石は我がモのだ。当然な。生キてる間は、せいぜい覚エておくがいイ、人間ドもよ」

うち続く砲撃に、再び天井が揺れていた。鋼鉄が砕け、稲妻が光り、埋蔵された熾火石が炎の煌めきを放った。

憤怒をみなぎらせて剣を抜き、ストームキャストが猛然と駆け出した。〈歪み〉の魔力と熾火石の光に包まれたジキットは、甲高い叫びを上げつつ敵に飛びかかった。

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